ぼんやりとした感想
タイトルからイメージしたのと
かなり違う内容の小説で刺激的だった。
なぜ、刺激的なのかというと、
人類という括りのマクロ的な視点と、
個人という括りのミクロ的な視点の両面から
登場人物が色々な考察を見せてくれたから。
物語の中で描かれている
ろくでもない、愛すべき人間みたいなものに、
ノスタルジックな感情を抱きつつ、
人工知能やクローン技術が発展した未来について
リアリティのある仮説を楽しめた。
異質なものを感知して排除
私がメッセージ性が強いなと感じたのは、
「人が自分とは異質なものを見つけ出す力は、
おれたちが思っているよりもずっと強いと思わないか」
という台詞。
国際紛争なんかを見ていても、
似て非なる者同士の方が憎しみの増幅率が高い気がする。
人種的に近い、地理的に近い、文化的背景が近い、
などなどの人たちに対しては、理解できる部分が多いだけに
こじれると厄介なのかもなぁ。
実際、日本に暮らしてる私が
どんな文化的背景を持っているかイメージできない
北欧圏の国の人に憎しみを抱くことって難しいし。
15の8とか30の19とかっていう
数字の名前を付ける三つ目の種族を、
一人の放浪型見守りが
毒で絶滅に追い込んだくだりとかも、
「○○大虐殺」とか「○○民族至上主義」
みたいなことを繰り返してきた
我々人類の歴史と強烈にかぶってるなぁ
って思ったり。
「大儀のために生きる」
とかってカッコイイけど危うい部分も
多く含んでる。
光合成できるようになった種族が言ってたように
自分と身内と親しい人たちがハッピーになるように
適当に暮らしてるのが一番いい気がする。
ところどころに感じる予言的なストーリー
人工知能を発達させた人類が、
人工知能をコントロール下におけるようにあくせくしたり、
結局、戦争を口実にして、なし崩し的に
リミッター解除して人工知能に依存していく様子が
ものすごくリアリティがあった。
現代の価値観だと
人間のクローンって倫理的にNGってなってるけど、
そのうち当たり前になってる可能性もあるなって思った。
著者の背景とストーリー展開と
川上弘美さんは全く知らなかったので、経歴とかチェックしてみると
「お茶の水女子大学理学部生物学科に入学し、SF研究会に所属」
ってあった。
物語の中でのネットワークのくだりとか、
クローン生成のくだりとかやたらと詳しくて
理系の人が書いてるっぽい感じだったので、
生物学科って聞いて納得。
ストーリー展開も、
どんな世界なのかのヒントを小出しにして
読み進める程に、世界観が鮮明に浮かび上がってくるあたりが
大ヒット海外ドラマを見てるようで面白かった。
大きな鳥にさらわれないよう
SF小説として読んでみてもイイかも。
単行本: 346ページ
出版社: 講談社 (2016/4/22)
言語: 日本語
ISBN-10: 4062199653
ISBN-13: 978-4062199650
発売日: 2016/4/22
.
コメント