ざっくりとした全体の感想
小川洋子さんの本は初めて読むんだけど、冒頭の数行からかなりストーリーに引き込まれました。観察眼が鋭く、描く情景に温度を感じるという印象でした。作家さんなんだから表現うまいの当たり前なんだろうけど、それでもビックリするくらい自然と物語の世界に入り込めた感じ。
フィクションなんだけど、「私の子供の頃の自伝です」って言われても信じちゃうくらいリアリティがあった。リアリティの源泉はどこにあるのかって考えたら、それぞれの登場人物の持ってる寂しさみたいなものなのかなって気がした。
双子の姉をナチスの強制収容所で亡くしたローザおばあさん。旦那の浮気のストレス解消のために酒とタバコと誤植探しに夢中になる伯母さん。身寄りが無いからこそ家事にすべてを捧げる米田さん。フレッシー動物園の仲間が誰もいなくなってしまって、ミーナを乗せて登下校するポチ子。喘息持ちで外の世界に自由に出ることができないから、本とマッチ箱を起点にした内的世界に想像力の根を張るミーナ。
喘息で入退院を繰り返すミーナが若くして亡くなっちゃうんじゃないかって心配したけど、ケルンで翻訳エージェント立ち上げちゃうパワフルなオバサンになってて安心した。それにしても、自分の思い出をここまで瑞々しく真空パックできたら面白いんだろうな。
鉄板なストーリー構成
ここまで物語にのめり込めたのには、内容以外にも理由があったんだなって、読了後に気づいた。ミーナの行進は構成がハリウッド映画の王道パターンと似ている。『神話の法則』っていうシナリオライター向けの本なんかに詳しく書いてあるんだけど、「日常から非日常への冒険、困難などを乗り越え、宝物を手に再び日常に帰る」みたいなパターン。
小川さんが意識してそうしたかどうかはわからないけど、ストーリー構成の威力を体感できた。興行収入を最大化したいハリウッドの脚本家が参考にするだけある。自分で小説書くときも意識しなきゃな。
水曜日の青年とミーナの関係におせっかいを焼く朋子の心理
ミーナの淡い初恋に必要以上に首を突っ込む朋子の様子を見ていて、なんか昔こういうタイプの子いたなって思った。なぜかしら他人の恋愛に関して自分のこと以上に熱心に関わるタイプ。作中の朋子もそうだけど、自分はとっくり兄さんに対して積極的になれていないのに、ミーナには積極的になれと望む。
自分が果たしたいと思う気持ちを、人の恋に関わることで代替してるのかもしれない。昔いた他人の恋愛に首突っ込むタイプの子も、そんな気持ちだったのかもなぁとなんとなく思ったり。何かしらの満たされない想いや欠乏感を満たそうとして、替わりになりそうな行動を起こす。人間はそういう性質を持った生き物なのだろうね。
マッチ箱とミーナの物語
物語の中の物語として登場する、ミーナが書いたマッチ箱のお話。どれもステキな話で、僕がこの本の中で一番好きな部分。一つひとつの話もよくできてるんだけど、作中で披露された4つの話は朋子と過ごす1年を通じてミーナの心境の変化をたどっているようで奥深かった。
(1)シーソー象の話
「好きな時に好きなところに出かけたい」という欲求とそれができないという無力感が込められているようなお話。
(2)三日月に腰掛けるタツノオトシゴの話
自分が大事にしている家族をいつか失ってしまうんではないかという不安や、少しばかりの死への憧れが込められているようなお話。
(3)羽根を繕う天使の話
自分が水曜日の青年に寄せる想いは、口に出さなくても天使が伝えてくれるだろうし、彼の想いもまた天使が自分に伝えてくれるんだろうという希望が込められたようなお話。
(4)ガラス瓶に流れ星を集める少女の話
死に対する不安や恐れを持っていたけれど、ポチ子が死んだ後もポチ子との思い出は心の中にずっと残り続けていると知り、いたずらに不安がることなく毎日を生きて行こうといういう決意が込められたようなお話。
特に4つ目のお話は、マッチ箱を2つ入れて朋子にプレゼントしたことから、友情の証であると同時にミーナの決意表明のような印象を受けた。
ま、全部僕の主観的な捉え方だけどね。
フラッシーという飲み物のオリジナル
作品に出てくるフラッシーという飲み物に原型があるんじゃないかと調べてみた。どうやらプラッシーがそれっぽい。「オレンジ風味飲料にビタミンCを添加した」という健康増進に一役買ってみようっていうコンセプトもフラッシーと似てるし。
>> ハウスウェルネス PLUSSY(プラッシー)の詳細はこちら
ミーナの行進
文庫: 348ページ
出版社: 中央公論新社 (2009/06)
言語: 日本語
ISBN-10: 4122051584
ISBN-13: 978-4122051584
発売日: 2009/06
表紙のイラストだけでなく、挿絵もカラーの可愛い感じに仕上がっててビックリしました。他人の話なのに自分の過去を振り返ったような、懐かしいあったかい気持ちになれる本でした。
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