疾走感のあるハードボイルドテイスト
共産圏と資本主義圏の冷戦と代理戦争。それに関わった犬と犬を取り巻く人間や組織の物語。そう聞くと少し堅いテーマのような気がするけど、軍部やらマフィアやらヤクザやらが暗躍する血なまぐさい感じはハードボイルド小説っぽくて読みやすかった。
この小説って警察とか司法とかっていう、いわゆる正義といわれる人たちが全く出てこないのがなんだか不思議な感じがした。「善VS悪」みたいなわかりやすい2極構造じゃないからこそ、リアリティが含まれているのかなって思う。
犬目線だからこそ、炙り出される人間の滑稽さ
軍用犬とその子孫を中心にした犬の視点で物語が語られているのが面白かった。何が面白いかというと、犬の寿命のスパンで話が進むので、20世紀という100年を語るだけで何代もの壮大なストーリーになるというところ。人間中心だとせいぜい2~3代で話が終わってしまいかねない。
そして、世代の移り変わりが早いからこそアメリカ、ソ連、メキシコ、中東、サモア、ハワイと国境を軽々と超えたストーリー展開が可能になるんだなぁと。
そして任務、使命、生存本能に忠実に生きている犬との対比によって、人間同士の争いを客観的に見ることができた気がする。
資本主義と共産主義の戦いって誰得なのか?
なんとなくは世界史とかで学んだけど、ベトナムやらアフガニスタンで起こった米ソの代理戦争ってホントに何だったんだろうか、と改めて思った。
資本主義陣営は共産主義を地球上から駆逐して、全てが資本主義に染まったらハッピーだったのか?他の国で死体の山を築いてまで何が欲しかったのか?まったく理解できない。
ざっくりと「国益のため」とかって言われて、なんとなく納得してしまってるけど「自分たちの考え方に賛同しない人たちを全員抹殺することが国益になるのか?」突き詰めて考えると答えなんて無い気がする。
歴史の教科書に載ってるような大義名分は後付け感が強い。目先の利益と、その場の雰囲気で戦争してたような気がしてならない。ホントにそういうのやめてほしい。
といいつつも、国や組織を動かすほどの意思決定がどの段階から形を成していくのかは興味深い。独裁者が仕切ってる国ならいざ知らず、民主主義を謳っている国家が決断するときって何が決定打になるんだろうか?
答えは出ないけど、現実について色々と考えさせてくれる良いきっかけになった。
ベルカ、吠えないのか?
ベルカという名前が襲名されていくあたりが、歌舞伎の世界みたいだなぁと思いました。
文庫: 394ページ
出版社: 文藝春秋 (2008/5/9)
言語: 日本語
ISBN-10: 4167717727
ISBN-13: 978-4167717728
発売日: 2008/5/9
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